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Melody in summer ~3年後の夏~

「にはは」
「なんだなんだ、その笑顔は。これから何か始まるのか?」
「そうだよ。私のお誕生日会」
「ん?」

往人はうだる暑さの中、カレンダーを見た。
7月23日。
「ああ、昨日は皆既日食だったらしいな。曇ってて気付かなかったが」
「うぅ、どうしてそんなこと言うかなあ」

誕生日なんてそんなもんだ、と往人はごろんと寝返った。
「そもそも俺は流浪の中で自分の誕生日すら忘れちまったんだ」

自嘲気味に笑って、目を閉じる。
そのまますやすやと眠りの世界に入っていこうかと思ったが、無理だった。

「む」
誰かに鼻を摘まれている。
言うまでもなく、観鈴に違いない。

「お前はどうしても祝って欲しいか」
のっそりと起き上がって、実にめんどうくさそうな目を観鈴に向ける。
当の本人は、いかにもやる気だった。
観鈴は「往人さんは必ずやるよ」と自信満々に言う。
「誕生日パーティーをすると」
「すると?」

観鈴は人差し指をまっすぐ上に立てた。
「豪華絢爛なご飯が待っているのです」
「よし祝おう今祝おうすぐ祝おう」

***

「かんぱーい!」
そして集まったのは、霧島姉妹に美凪、更には
「ぴこ♪」
「む、お前もいい匂いにつられてやってきたのか」
「ぴこ!」
一匹(?)の同類だった。
「なんだかんだってこの街に住んじまったが、結局飲み会に呼べるのはこの面子だけだな」
しみじみと往人が言う横で、ポテトがカボチャを掻っ攫っていった。

「これだけ皆さんがお揃いだとにぎやかで良いですね」
くぴ、と美凪がお猪口を傾ける。
「10代の頃が遠く思えます」
そしてもう一口。長身の少女はもう少女というよりは、妙齢の魅力をかもし出していた。
そう、観鈴はもう21歳になったのだ。
誰かがどこかで「かっこにじゅういちだー」と騒いでいたが、真意はまったく分からない。
観鈴に聞くと、困った顔で「私にも分からないかな」とかぶりを振った。

「さーて、いくでぇー!」
一升瓶を抱えた晴子が、思い切り聖に絡んでいる。
その場の乗りと勢いで意気投合してしまったのか、盛大な酒盛りが始まった。
「というか、あいつらどういう肝臓してるんだ……?」
よく分からないが、取り敢えず参加した。

***

「う、うぅーっ……」
あいつらは化け物だ、化け物どもに違いない。
往人は完全にダウンして、縁側に投げ出されていた。
ただ、その頭は床にはない。観鈴の膝の上だ。
空を見上げると、昨日が新月だったせいで月はどこにも見えない。
その代り、夏の星が空に散らばっていた。
「綺麗、だな」
ぼそりというと、案の定観鈴の期待した声。
覗き込んでくる目をふい、と避けると、頬を膨らませてぶー垂れる。
そんなところが、ちっとも変わっていなくて、

でも、そこが可愛い。

「なあ、観鈴」
「どうしたの、往人さん?」
ぽつりと、思い出したように往人は言った。
「誕生日も、結構いいもんだな。おめでとう、観鈴」
「ふふっ、ありがとう。往人さん」

夜の神尾家に、一陣の風がざあっと吹き抜けていった。
その縁側で、いつものシャツを着た往人と、恐竜のシャツを着た観鈴が、
仲良く一時のやすらぎに身を委ねていた。
「騒々しいのを遠くから聞くってのも、なかなか風流なものだな」
「そうだね、私たちだけぽっかり浮いてるみたい」

この、空に。

(了)

[文責] 掘江弘己

***

まあアレですよ、もう9年も経ってるし、時系列がちょっと乱れるくらいはご愛嬌ということで。
ちなみに994+1000=1994のはずなんだけど、どうしてみんな2000年だと思ってるんだろう?
6年くらいはただの誤差なのか?

※一応1994年が舞台だとしても、祝日その他の日付は合っている。
むしろ、2000年だとしたら医者の聖くらいはPHSを持ってても不思議じゃないのに持ってない。
なんというか、文明レベルが1994年な気がする、そんな鍵っ子掘江さんの独り言。
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