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その1はこちら
姉御第二段。どうぞ、御賞味あれ──

[文責] 掘江弘己
[HP] http://cljewel.h.fc2.com/



 いくら理樹が小柄とはいえ、そこは一端の男子学生である。その理樹を担いだまま全力疾走で男子寮まで駆け抜ける体力と脚力や如何に、唯湖はあっという間に理樹の部屋まで辿り着いてしまった。
 大して息を乱れさせた様子もなく、むしろ別な意味で乱れそうな呼吸を必死に抑えつつ、唯湖は理樹の身体をゆっくりと降ろす。
「ありがとう、唯湖さん」
 礼を言う理樹に素直に対面できず、唯湖はそっぽを向いてぶっきらぼうに言った。
「なぁに、気にすることはない。我々は今手配中の身だ。つまり、運命共同体という訳だよ」
 そこまで言ってから、唯湖ははたと不思議に思った。何故自分が理樹と『運命共同体』にそもそもならなければいけなかったのか。
「そういえば、理樹。お前はどうして私の所へ来たんだ?」
「それは──」
 理樹が言いかけた時、遠くから声が聞こえた。そしてそれは段々と近付いてきて、やがて敵意だと気付くまでに時間は掛からなかった。
「理樹、早く隠れろ!」
 耳元で叫び立て、理樹がポケットから鍵を取り出すのを促す唯湖。理樹がドアノブに手を掛けた瞬間に、唯湖は彼の手ごとドアノブを引っつかんで扉を開き、理樹を中に押し込むと自分もスルリと中に入り、音を立てないように素早く閉めて鍵を掛けた。
「誰だ!?」
 間一髪。見回りの教師が廊下から顔を出した時には既に二人の姿はなく、そのままありもしない影を追って教師の足音は遠ざかっていった。
「ふぅ、助かったな」
「そうみたいだね」
 一息吐いて、ふと唯湖が手元を見た時。
 理樹がその目線を追って自分の手元を見た時。

 少しだけ、二人の時間が止まった。

 力強く握られた手。顔と顔がつっくいてしまいそうな程に近い距離。
 お互いに見合わせると、今度は吐息が鼻頭をくすぐって行きそうな程の、至近。
「あ……」
 見る見るうちに唯湖の顔が朱で染まっていく。慌てて横を向こうとしたその頬はしかし、理樹の手で遮られた。
「唯湖さん。ちゃんと僕の顔、見てよ」
 いつになく真剣な理樹の表情を見ると、唯湖も少しだけ眼に真剣な光を宿らせる。
「あ、ああ……」
 不思議なことに理樹は本気になると誰よりも強く、頼れる背中になることを、唯湖はちゃんと知っていた。だから、彼女は理樹に全てを預ける覚悟は、理樹の告白を受け入れてからこの方、完全に出来ていた。
 だが、紅くなった顔まで隠すだけの技量は、まだ彼女には備わっていなかった。胸の鼓動を抑えきれず、理樹が紡ぐであろう次の言葉を待つ。
「唯湖さん。……僕が今日探し回ってたのは他でもない、唯湖さんを探すためだった。ねぇ、唯湖さんは僕のこと、嫌い?」
 突然の思い切った質問に、唯湖は少し動揺した。だが、それしきのことで答えを揺るがし言葉を濁す程、彼女の心は柔にできていない。
「そんなはずはない。私はもちろん、目の前の少年が大好きだ。瞳にでも唇にでも何にでも誓おうじゃないか」
 言い放った言葉は、理樹へと確かに染みこんだようだった。しばらく真っ直ぐ唯湖を見つめて、やがて唯湖の腰に手を回した。
「な、お、おい、理樹……」
 唯湖をしっかりと抱きしめた理樹は、頭が届かず──本日二度目の──胸に顔を埋め、優しく問いかけた。
「だったら、僕と一緒にいる時間を増やしてよ。授業をサボったりしないでさ。……たまには一緒にサボったりするのも、もしかしたら楽しいかもしれないけどね。でも、独りで寂しくピアノを弾いてても、しょうがないよ。どうせだったら、僕に聞かせて欲しいな?」
 朱みがかった頬は徐々にいつもの白色に戻り、唯湖は目を閉じて理樹を抱き返した。
「そう、だったな。済まない。キミを、理樹を寂しがらせたかった訳じゃないが、少々考えが足りなかったようだ。分かった、一緒に授業を受けよう。一緒に、共に過ごしていこう」
 唯湖はそこで一旦言葉を区切り、『だが、』と付け加えた。
「ピアノの練習をする時間くらいは確保させて欲しいものだ。理樹に拙い演奏は聞かせたくないからな」
「もちろんだよ」
 理樹は腕を解いた。唯湖もそれに倣うと、二人はどちらともなく唇を重ねた。
 小鳥が啄むような軽いキス。だが、それこそが二人の絆を確かめる証。
「僕たちの時間は沢山あるんけど、無限じゃない。どんな時でも後悔しないように、沢山の想い出を作っていこう」
「ふふっ、たまには恭介氏よりも頼りになる立ち振る舞いを見せてくれる。流石は、私が信頼する男だよ、理樹」

 二人はそのまま、チャイムが鳴って我に帰るまで、ずっとお互いを抱き締めていた。



Fin.
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

 

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