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早いものでHPを開設して10日。
そろそろ書き下ろし第二段をば。厳密にはテストからの現実(ry
近日HPに転載するかも?

「リトルバスターズ!」より、メインはゆいちゃんこと来ヶ谷の姉御。
一応ネタバレはない程度にしてあります。
「らき☆すた」以外は久々だったりしますが、どうぞお楽しみを。

[文責] 掘江弘己
[HP] http://cljewel.h.fc2.com/



「ある逃避行」

 数学の授業が始まって早10分、理樹は未だに探し人を見つけられずにいた。いつもの中庭にも、放送室に回っても、更にはそっと教室に戻っても、やっぱりいなかった。
「何処に行っちゃったんだろ……」
 次は音楽室と当たりを決めて、理樹は歩き出した。
 リノリウムの床が鳴り、渡り廊下を軋ませて南校舎に足を踏み入れた頃、理樹の耳に心地良いメロディーが鳴り響いた。
 聞き間違えるはずもない、優しい旋律。いつの間にか理樹の歩調は速くなって、次にハッキリと気が付いたのは音楽室のドアを勢い良く開けた後だった。
 ピアノの前には紛うことなく唯湖は座っていて、理樹の姿に気付くと、華麗に動かしていた指先を止め、立ち上がった。
「立ち聞きはいけないな、ん? 少年よ、対価を払うのは当然の礼儀だろう?」
 探しに来たのにそれはないでしょ、と理樹が一蹴するや、唯湖は一人笑い始めた。
「はっはっは、キミも言うようになったものだ。だが、金を払えとは言っていないぞ?」
 妖しく言い放つと、唯湖は理樹の下へ歩み寄り、徐にその豊満なバストに理樹の顔を埋めた。
「ん、んー! んー!!」
 理樹が抵抗して声を上げるが、唯湖はくすぐったそうに恍惚とした表情で理樹を抱きとめたまま、耳元で優しく囁く。
「別に身体で払ってくれても構わないんだ。どうだい? 青春の欲望が炸裂している年頃のキミにはお似合いだろう?」
 理樹には言いたいことが山ほどあったが、残念ながらそれは全て「んー!」で片付けられてしまった。
 大きな柔らかさに包まれるのは少年の憧れではあるのだが、殊唯湖の場合、余り「憧れ」という単語で括れる程、夢のようなシチュエーションでもない。端から見れば羨ましくても、肝心の理樹にとっては、苦痛といわなくとも快楽ではなかった。何せ、息もろくすっぽ出来ないのだから。
 ぐりぐりと胸に押し込まれた状態からやっと解放されると、酸欠と恥ずかしさで朱に染まった理樹は反駁した。
「だから、来ヶ谷さん、そういうこと言わないで下さい!」
 真赤な顔で攻め寄る理樹を見て、唯湖の方もゾクゾクと電撃を走らせ、口を開きかけた。
 その刹那。
「少ね……んっ」
 急に理樹の顔が迫ってきて、視界が一人の少年に染め上げられた。
 唇に温かい感触。紛れもなく、理樹の方から積極的に口付けてきたのだった。
「そんなこと言い出したら、止められなくなっちゃうじゃないですか……僕だって立派な男の子ですよ?」
 そのまま舌をねじ込まれる。小さな水音は誰もいない音楽室で一つのハーモニーになり、そこかしこの肖像画は目を閉じたようだった。
「ぷはっ……くるが……唯湖さん、続きはどうしますか?」
 悪戯っぽく、でも真剣に、理樹は問いかけてくる。その目を直視できずに、唯湖はそっぽを向いた。
 顔が熱い。身体が熱い。そして何より、心が熱い。火照り沸騰した脳は何も考えてはくれず、しかし何かが唯湖を堰き止めているようでもどかしかった。このまま野生に還りたかった。
「こ、」
 言いかけて、唯湖は言葉に詰まる。もう何もかもどうでも良くなっていって、それでも何かが邪魔し続けていた。
「こ?」
 聞き返す理樹に、狼狽した唯湖はつい声を大きくしてしまった。
「この続きは、どうだ、君の部屋でやろうじゃないか?」
 あっ、と理樹が口を押さえた時にはもう遅く、授業などないはずなのに何事かと一人の教師が音楽室のドアを開けてきた。
「ま、不味い。行くぞ、『理樹』!」
 言うが早いか、理樹の言葉も待たずに、彼の身体を軽やかに抱えると一直線にドア──の反対方向、ベランダへと突き進んだ。そしてそのまま足で軽く窓を開けると、手すりを乗り越えてふわりと宙へ舞い上がった。
「私を捕まえよう等と、小賢しい。私を捕まえられるのは世界でただ一人だ」
 あっという間に教師を煙に巻いた唯湖はしかし、理樹を離さずにお姫様抱っこを続けたまま、風の吹くままに走り続けた。

 というのも、降ろそうとしたその瞬間から、自分が堕ちていくのが分かっていたので、男子寮に着くまでの間、理樹の声を聞こえぬ存ぜぬと一切合財無視して、愛すべき少年を胸に抱え込んだまま、唯湖は校舎の外へと全速力で走っていった。



Fin.
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

 

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